氷室冴子先生、ありがとうございました

【訃報:氷室冴子さん51歳=作家 「なんて素敵にジャパネスク」など少女小説で人気】
見た瞬間、『嘘!』と叫んでしまいました。ショックです…この若さで。まだまだ書きたい話がおありだったことでしょう。

子供の頃、初めて手に取ったコバルト文庫が『シンデレラ迷宮』でした。以来、自分にとってコバルト文庫はイコール氷室冴子先生でした。
氷室先生には多くの著作があり、どの作品も素晴らしいのですが、自分の中では一番最初に読んだ『シンデレラ迷宮』を超えるものはありませんでした。自身が作品を生み出す側になっても、やはりそれは変わりません。
思い入れがあるのは勿論ですが、練りこんだ構想とそれを一冊にまとめあげた手腕、主人公と主人公を取り巻く世界の秘密が徐々に明かされていくミステリー展開、鍵を握る各ヒロインたちの人物描写、未来への希望に溢れたエンディング、何より読後感の爽やかさ。読み終えた後、自分でも説明できない涙が溢れたことを良く覚えています。あえて難点を挙げるとするならば結構根暗な(笑)主人公の性格かもしれませんが、それもあの年頃の少女の内面・心情としては極めて自然な描写であると思います。

この作品にめぐり合うまで、自分にとって物語とは『めでたしめでたし』で終わるもので、その先、その裏を想像するものではありませんでした。書かれた言葉だけを読むもので、書かれなかった言葉を読むものではありませんでした。その視点を変えてくれたのが、この『シンデレラ迷宮』でした。物語は字が尽きたとしても終わらないのだと、読み手の中で続いていくものなのだと教えてくれた作品でした。

千葉出身の自分は(分かっていても)主人公の名前『利根』を”りね”ではなく”とね”と読んでしまったり、ノートにこの作品のイメージマンガを勝手に描きちらして楽しんだり。今でも、本棚にはそんな思い出と一緒にその時買った『シンデレラ迷宮』が並んでいます。自分が死ぬまで並んでいると思います。

例え携帯やネットの時代になっても、どれほど時代を経ても、氷室先生の描いた少女たちが色褪せることはないでしょう。『シンデレラミステリー』『ざ・ちぇんじ!』『なんて素敵にジャパネスク』『なぎさボーイ』『多恵子ガール』。どの作品も大好きでした。氷室先生、素晴らしい作品と、楽しい思い出と、言葉に出来ない感動をありがとうございました。

『シンデレラ迷宮』で一番好きだった踊り子の『緋のオディール』のイメージを捧げて、氷室先生のご冥福を心よりお祈りしたいと思います。


……哀しいなあ。